ゲノムの時代は腎がんにも来るのか

腎臓がん

話が変わって、プレシジョンメディシンです。
NHKスペシャルとかでもやってましたけれども、
がんが持つ遺伝子、6月に、
2つのパネル検査が承認されました。
1つが、NCCオンコパネル、がんセンターが作っているものです。
もうひとつが、外資系のもので、
ファンデーション1というものです。
NCCオンコパネルが、110何個の遺伝子を調べる、
ファンデーション1が300何個の遺伝子を調べる、
というようなものなんです。
その中の遺伝子の変異がここにあるとわかったら、
その遺伝子の変異に合わせたお薬を使えばいいという
そういうような意味で、個別化治療、遺伝子を使った
個別化医療、そういったものに役立つのではないかと、
今すごく期待されています。
もうひとつ、がん免疫療法のバイオマーカーとして期待される、
MSIと呼ばれるものとか、TMBと書いてあるんですけれども、
テューモアミューテーションバーデンと言って、
遺伝子変異の数です。遺伝子変異がどのくらい数があるのかという
それもカウントできるというのが、
このパネル検査の役割としてあるわけです。
では、腎がんはどうなのかというと、
ここに、腎がんによくある遺伝子の変異を、たくさん書いてあります。
先ほど出てきた、VHLというのも、そのうちの1つですけど、
いろいろな遺伝子があるんですけど、そのほとんどが、
がんの抑制遺伝子なんです。
がんをよく車に例えられるんですが、
がんが走り、がんが増えるたびに、アクセルとブレーキがある。
アクセルを踏む方がドライバー遺伝子という、
がんをどんどん加速させるような遺伝子、
がん抑制遺伝子は、よくブレーキに例えられますが、
ブレーキの役割をしているんです。ブレーキが壊れたら、暴走して、
がんがどんどん進行するということなんですが、
腎がんは、どちらかというと、
この、がん抑制遺伝子の変異によっておきることが多いんです。
こちらが、これ真ん中で悪そうな顔をしているのが、がんです。
ドライバー遺伝子というのは、エネルギーみたいなものです。
エネルギーが、どんどん入るから、がんが増える。
それにブロックするような、エネルギーが入ってこないようなお薬、
もしくは、エネルギーをもともと作らなくするようなお薬、
そんなお薬が結構作りやすいんです。ブロックする薬は作りやすい。
ただ、腎がんは、がん抑制遺伝子、がんが暴れようとするのを、
ダメと止める、こういう遺伝子が壊れた、働かなくなったのが、
腎がんの発生にかかわっているので、
こういう、一旦ダメになったものを復活させるような薬、
もしくは、これに代わるようなタンパク質を体にいれるようなお薬は、
なかなか作りにくいんです。
なので、実際、プレシジョンメディシンは、もしかしたら、
腎がんには役に立たないかもしれない。
もうひとつが、さっき出た、遺伝子の変異数、
テューモアミューテーションバーデンという話がありましたが、
これは少しわかりにくいんですが、
ここに縦に線がいっぱい入ってるんです。
これ上に行けば行くほど、がんの遺伝子変異数が多いというふうに
思ってください。だから、このあたり点々があるがんは、
遺伝子変異数が多い。こっちのほうに
点々が多いがんというのは、遺伝子変異数が少ないんです。
例えば、免疫治療がよく効くと言われている
肺がんや悪性黒色腫といわれるものは、
だいたい変異の数が、10~400メガバイトあるが、
腎がんは1くらいしかない。なので、
遺伝子変異数、TMB、テューモアミューテーションバーデンを測っても、
腎がんに効くか効かないかわからない。
あまり、腎がんは、これに関わっていない。
これも、難しいのですが、こっちが上に行けば行くほど、
右に行けば行くほど、遺伝子変異数が多い。
悪性黒色腫とか肺がんとかは、遺伝子変異数がすごく多いです。
腎がんは、その半分くらいしか遺伝子変異数がない。
なのに、上に行けば行くほど、効果が高いという意味なんです。
遺伝子変異数が半分くらいなのに、肺がんとかに比べて、
効果が高いということが言われている。
なので、こういうデータからしても、あまり遺伝子変異数は、
役に立たないということが言われています。
では、なんで遺伝子変異数が少ないのに、
腎がんは免疫治療が効くのかというと、これもややこしい話なんですけど、
これ、インデルってここに書いてあるんです。
遺伝子変異の種類が違うんです。SNVという種類の遺伝子の変異は、
例えば、これDNAですけど、DNAの1個の部分が変わるだけなんです。
1個の部分だけ変わると、タンパク質が1個しか変わらない。
でも、こちらは、インデルっていう形の遺伝子変異が起きていると、
その後ろ側が全部がアミノ酸の変異が起きるんです。
なので、異常なたんぱく質の数が多くなるんです。
がんはもともと異常なたんぱく質を作る細胞なんです。
さっきAPCが悪いものをリンパ球に見せてたじゃないですか。
あれの数と考えてください。1個しかないのが、こちら、
たくさんあるのがこちらなんです。
リンパ球からしてみれば、標的となるような異常なたんぱく質が
あればあるだけ、認識しやすい、攻撃しやすいんです。
なので、この遺伝子の変異によって大きく違うということです。
この遺伝子の変異の数、種類に分けて遺伝子の変異の数を見ると、
実はさっき肺がんとか黒色腫とかの遺伝子、
免疫治療が効きやすいがんと腎がんというのは、
ほとんど変わらない位の数の多さがあると言われている。
さっき言ったTMBといって遺伝子変異数は少ないけれども、
インデルというものによっておきる遺伝子変異の数が、
腎がんはすごく多いんです。
なぜ、これを出したかというと、
実はさっき2つパネルがありました。
NCCオンコパネルと、ファンデーション1と、2つあるんです。
これあまり言うとおこられるかもしれないんですけど、
NCCオンコパネルは、インデルバーデンを出してくれるんです。
でも、ファンデーション1は、たぶん出さないんです。知ってる限りだと。
なので、腎がんの人がもし何かこのパネルを受けたいんであれば、
どっちかと言うと、NCCオンコパネルの方が、
より有用なデータがあるかなと思って出してみました。
これは、今日1つだけ出す実際の患者さんのデータです。
ここに、パピラリRCCって書いてありますけれども、乳頭型の腎がんです。
一般的に、一番多い淡明細胞型ではないものなんですけれども、
肺に、小さく転移があります。オプジーボとヤーボイの併用療法を使ったら、
使った直後は、ワーッと大きくなったんです。大きくなって、どうしようと
びっくりしてたんですけれども、ここから4日目、19日目、3ヶ月目って、
こうやって見ていくと、この間、何もしてなくて見ているだけなんですけど、
だんだん小さくなって、今もう消えてしまったんです。
大きくなったのは、実は、リンパ球がここ集まっているからなんです。
がんが大きくなったんではなくて、一時的にリンパ球が、集まったから、
見た目上、少し大きくなっただけで、
ここで今、がんをリンパ球がやっつけている最中なんです。
もう、やっつけ終わったから、撤退といって撤退していくと、
そこにあったがんが消えている。そういうような状況なんです。
実はこのヤーボイもオプジーボも、淡明細胞型のがんに対して、
臨床試験が行われて、そこで効果を出してるんですけど、
実は、乳頭状腎がんも、淡明細胞型と同じくらい遺伝子変異があるんです。
先ほど出てきたインデルバーデンですけど、遺伝子変異の数です。
なので、理論的には、この乳頭状型の腎がんにも効くはずなんです。
この人は、理論通りに効いてくれたので、うれしかったです。
もう一つの遺伝子変異で、今からパネルをもし受けられる人がいたら、
参考になるかなと思って持ってきたんですけれども、
PBRM-1と呼ばれる遺伝子変異、これに関しては、
免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいと言われているんです。
そのようなデータがある。2つカーブがありますけど、
上が、PBRM-1の遺伝子変異を持つ人、なかなか再発しないけど、
PBRM-1の遺伝子変異を持っていない人は、
どんどん下がってしまうということで、パネル検査は、
あまり腎がんには役に立たないかもしれないと最初に話しましたけれども、
中には、先ほどのインデルバーデンであったり、
PBRM-1というのも、どちらのパネルでも測りますので、
こういうものが、免疫チェックポイント阻害剤の効果、効きやすいことに
関係するかもしれないという情報も得られるかもしれません。
最後のスライドです。テイクホームメッセージですけど、
今まで少し難しい話もしてきましたけれども、腎がんというのは、
他のがんに比べても、特徴的ないろいろなバイオロジーを持っています。
そのバイオロジーを解明することによって新しいお薬が開発されて、
科学的にそこをつめてつめて新しいお薬を開発してきているんです。
今までの10年間もそうでしたけれども、今からの10年間も同じペースかどうか
わかりませんが、開発がどんどん進んでいくと思います。
多彩な治療のラインナップです。この10年間でもそれに合わせてすごく
いろいろなお薬が出てきましたけれども、今からも出てくることが期待されます。
これが一番大事なことですけど、この10年間で先ほど示しましたように、
生存率がぐんと伸びてきているんです。倍以上伸びてきているんです。
今は、これからさらに、さきほどジムアールソン先生も言っていましたけれども、
完治を目指した治療にもっていけるんではないかということで、
そういう開発も、今すすめています。
なので、今からもしっかりこういうような開発をしていって、
患者さんのお役にたてるようなお薬をどんどん世に出していければと、
そのお手伝いができればいいなあというように思っています。

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